地域によって、その呼び方は若干違うようだけれど、
広島県では『 とんど 』と呼ぶようである。
この地では『 神明さん 』。
地域地域にある小さな祠の氏子で小さく組織されるようだが、
『 神明 』といえば、伊勢神宮。
天照大神を主祭神とし、伊勢神宮内宮を総本社とする。
この小さな祠のひとつひとつが、天照大神、、?
う"~む。。。。 またしっかり調べてみやう。 ( ..)φ
私が最初に『 とんど 』と出遭ったのは、高1の冬。
県北にある、同じクラスのひとのご実家にて。
旧正月を迎えた土日を利用し、彼女と共に彼女のご実家へ。
JRに長時間揺られ、それからまたバスに乗り。
雪に閉ざされたような山間の、
彼女が中学時代までを過ごした町に到着した頃は、夕暮れ時。
膝まで埋まる一面の雪野原で、闇に蒼く怪しく光る幻想的なまでの
田んぼの光景にこころ奪われる間もなく、
雪掻きをされた1枚の田んぼの真ん中に、空へと屹立する
とんど の姿に息を呑む。
すっぽりと宵闇に覆われたときが とんど の始まり。
40名近い、町というよりは ムラのひとびとが集まり、
マレびと である私をあたたかく受け容れ、包み込む。
点火の儀式。
はにかみながら書初めを手に集まる子どもたち。
ムラのひとびとが 披露されるひとりひとりのお子たちの書初めを認め、
空高く翔けあがれ、とのエールのなかで、舞い上がっていく書初めの数々。
その度に皆がどよめき 拍手を送り 子どもたちは歓声をあげる。
ぱんぱんとはじける竹の音。
回される竹酒の香り、美味しさ。。。。
このときの とんど の風景は、
思い起こす度、いつも美しく、清冽で、あたたかで。
時には涙が零れそうになる。
高1の1学期の席順は、皆が慣れるまで、
男子が南側、女子が北側と別れての出席番号順。
私のすぐ前の席となった彼女は、県北の中学の出身で、
高校の近くのアパートで、独り暮らしをしている、というひとだった。
元々遠距離通学や下宿通学者の多い高校で、
クラスの半分以上が、市外通学、下宿通学であったが、
彼女の中学からは高校でも彼女ひとり。
色白のたおやかなひとで、物静かで、いつも淋しそうな表情が印象的。
私はといえば中3のときに級長・副級長で苦楽を共にし、
正副級長の叛乱で混乱したクラスのなかで言の葉も交わすこともできなくなって、
ノートを交換するようになり、
互いに淡い想いを育んでいた『 彼 』 と、
同じ高校となり(当時の市は、公立5校選抜制。 合格者は振り分けられる)、
普通科12クラスもあるなかで、奇しくも同じクラスとなり、
同じ中学出身者は他に居ないにもかかわらず、
またしてもクラス委員を2人で拝命する。
クラス役員となったせいか、あっという間に皆と仲良くなり、
いつも騒がしい私と静謐な彼女とは、水と油であり、
彼女は内心、私を迷惑に思っているのではないか、とは感じながらも、
いつも独りでぽつん、といる彼女を放っておけず、惹かれるものもあり、
教室移動や昼食時間にはできるだけ声を掛けるようにし、
皆の輪に引き入れて、いた。
皆仲良しであったなかで、現在もつきあいの続く「親友」と呼べる友も何人かでき、
奔放なクラスメイトひとりに皆で振り回されながら、
現代国語の教諭である担任にもスパルタ式に可愛がっていただき、
【 彼 】とのクラス委員活動を始め、( 後の生徒会へと繋がる )
文芸部のオブザーバーに、バレー部にと、忙しく充実の日々を送っていた。
そんななかで、彼女との距離は縮まらなかった。
彼女から話題を振ってくることは決してなかったし、
クラブ中心の私には、彼女のアパートへ遊びに出かけるような時間もなく。
折に触れ、必ず私から声をかけて、皆の輪のなかに招き入れる、だけ。
そんな1学期当初からのような淡々とした間合いのままで、いた。
が、突然彼女から、実家に帰省するのに一緒に帰ってくれ、と懇願され驚く。
「 旧正月だから実家に帰らないといけない。
でも今は 独りであの町へ帰れない。 平気な顔で家族の元へ帰れない 」。
助けて欲しい、と 彼女は言う。
苦しい恋をしているのだ、と。
家族や町の期待を裏切っているのだ、と。
遠く県北から市内の高校へ通うクラスメイトたちには、
それぞれ背負っているものがあることは耳にしていた。
ムラ1番の秀才。
きっと立派な学問を修め、いずれ故郷に錦を飾り、
ムラの発展に力を尽くしてくれる。
そうしたムラの期待を誇りとともに一身に背負い、
ムラから奨学金のような援助金が出て、市内に出て来るのだった。
でも。
ムラ1番の秀才は、市内に在っては団栗のなかの一粒でしか、ない。
まずはそのことを自身が受け容れられず、
大海を識った下宿通学している殆どのクラスメイトは 潰れて いく。
足掻いて足掻いていくなかで、
男子の場合は、アパートがドロップアウト寸前の生徒たちのたまり場、
になってしまうケースが殆ど。
女子の場合は、、、、男性に縋ってしまうことが多い。
そうでなくても16,7歳で、
ムラに比べれば大違いの都会での初めての慣れない独り暮し。
毎回の食事や身の周りのことだけでもいっぱぃいっぱぃ。
自宅通学でクラブ活動に興じ、
夜は高額の進学塾に通う(恵まれた)クラスメイトたちとの余りのギャップ。。。
時折、彼女の手首に包帯らしきものがちらっと見えることがあった。
それは、そういうことだったのか。
リストカットを度々試みるほど、彼女は追い込まれていたのか。
彼女と共に彼女のご実家へ帰省し。
温かくもてなされながら、私のこころは苦かった。
この後、春休み直前に
彼女は溜め込んでいた睡眠薬を大量に飲み、手首を切り、
病院に運び込まれることになる。
2年になって彼女とクラスが離れ、彼女は長期に渡って学校を休む日が続き、
逢っても、とにかく彼と決別しろ、としか言えない私は、
次第に彼女と疎遠になっていった。
歯痒かった。 彼女の肩を揺すぶりたかった。
未来のない 恋 に 自分から囚われてしまうのは愚か、だと思えた。
疎遠、もなにも、元々、彼女と私を結ぶ縁は細かったのではないか、とさえ思った。
でも時を経て、私も、その出口のない恋を識ることになる。
そして紆余曲折の末、結婚し、この地に転居し、
旧正月の前には、あちらこちらで見事な『 とんど 』を目にするようになり、
その度に、ふっと彼女を思い起こしては、考え込んでしまう。
あのとき、自分に何ができたか。 できなかったか。
雪の降り積もるなかでの幻想的なひととき。
温かだったひとびと。
子どもたちを地域の宝として、いとおしみ、育もうとしていたひとびと。
それがその地に生きるものを雁字搦めに絡め取って行くようで
彼女には 懐かしくも負担で疎ましく重たく、
時には呪わしくさえ感じられていただろうか。
私がこの地に感じる憎しみを、彼女はずっと抱えていたのだろうか。
彼女は 何故 私を選んだのか。
単に脳天気で騒がしい賑やかし、として。
ではなかったのなら 何故。
こういったことに縛られて、息も満足にできない自分である、
ということを私に伝えたかったのか。
私は大事な手を離してしまったのではないか。
今年も『 とんど 』の時期が来た。
この地で出遭った『 とんど 』も様々な形があり、人間模様があり、
この12年で次々に存続が不能になって無くなっていった。
私のPTA時代に小学校PTAでやろう、という声が
『 とんど 』の習慣を持たない商圏地域からあがり、
そのこと自体は素晴らしいことだと思いつつも、企画実行する立場からは、
種々の事由で、不可能だと懸命にもみ消したりした(゚゜)\バキ☆
校区の海側の地域で、久々に見事な『 とんど 』を観た。
「 地域力 」 を観た想いがする。
空 が どこまでも 蒼い。
