恥ずかしながら、
喰わず嫌いで 芥川賞作家の松村栄子氏は未読。
漠然と、今後もずっと無縁な御方ではないか、と感じていたのだったが、
数年前の冬の古書店で いきなり 呼ばれた。
『 紫の砂漠 』 というタイトルと
パープルのグラデーションを掛けたハルキ文庫の装丁が大層美しく、
手に取った瞬間、脳裏に 見渡す限りにアメジストを砕いたやうな
透明感ある紫色の砂粒で埋め尽くされた砂漠が広がり。
気がつけば 暫し白昼夢を見た如く佇んでおり、
そんな自分にびっくりして、その隣にあった同じ著者の
同じハルキ文庫の 『 詩人の夢 』 の2冊をカゴに入れたのだった。

『 紫の砂漠 』 『 詩人の夢 』
松村栄子 ハルキ文庫 ( いずれも絶版 )
で、そのまま、積読山に埋もれさせてしまっていたのだったが、
今回の手当たり次第な積読山発掘乱読行為中、ついに繙くことになり。
繙いてみれば、4つの月を持つ世界の話。
さすがに 世界構成がしっかりしており、
その展開も単なるファンタジィというより、
しっかりしっかり SF ではないか、と思わされる嬉しい出逢いとなった。
私が呼ばれた『 紫の砂漠 』 とは、比喩でもなんでもなく、
本当に「 紫色の砂漠 」であった。
イラストが表紙のみで、本文にないことが 読む側の想像力の翼を
大きく広げさせてくれ、主人公のジェプシ同様、紫の砂漠に惹かれ、憧憬する。
この世界では 全ての人間は 性を持たずに生まれ、
一生に一度の 【 真実の愛 】 に出逢ったとき、
初めて 守る性と生む性に分かたれる。
「 真実の愛 」に 何歳に出逢うのかは判らず、
一生出逢わぬものもおり、出逢おうが出逢うまいが、
皆、7歳まで生まれた村で「 生みの親 」の元で過ごし、
その後、「 神 」の定めたそれぞれの「 運命の親 」の元へと送られる。
それから7年間、「 運命の親 」に自分の生業となる仕事を教わり、
次の7年で運命の親に恩返しし、その後、独立するのである。
神の定めた運命の親が、生みの親よりも優り、
「 真実の愛 」に 出逢うか否かが ひととして認められるか否かが決まる。
「 血 」の繋がりや、「 ジェンダー 」の抑圧から解放されると、
ひとは ここまで 他者を愛し育むために ロマンティックになれる――。
そんな理想郷のやうな 愛の世界 と、
「 運命の親 」 = 自分の生業 が神によって定められるという、
この世界の根幹を成す「 見守る神 」「 告げる神 」「 聞く神 」の
三柱の神の「 神話 」と対峙し、その成り立ち、誤魔化し、実態が
明らかになっていく過程 とに、なかなかの読み応えを感じた。
一冊のなかに これだけの濃ゆいものが詰まっているとは思えない、
美しい情景のなかの 美しく切ない物語。
呼ばれたハズだわ~~と 味わい深く読了したものの、
ここで終わらせないで。
もっと読みたいんですけど 的 気持ちでいっぱぃ。
ため息つきつつ 次の『 詩人の夢 』 を 手に取ると、
『 紫の砂漠 』 の続編であることに気がついて
一気にテンションアップ。


文中にイラストがなくて良かった!と思いながらも、
ジェプシが出逢い、大きな影響を与えた
翳りいっぱぃの「 詩人 」さんのイメージは、
超イラスト的で 『 辺境警備 』 の 神官さん だったり (滝汗)。
ジャンル : 小説・文学
テーマ : ブックレビュー
タグ : 紫の砂漠 松村栄子 芥川賞 ハルキ文庫 詩人の夢