我が家の隣は、田んぼを潰して大きな遮光ビニルハウスとされ、
椎茸の栽培場になっている。
200坪近いビニルハウスに、トタン屋根の作業場。
この作業場では、近隣のパートさんを雇い、椎茸のパック詰めをされ、出荷される。
昨年の台風の強風で、このトタン屋根がごっぽり飛んで、
我が家と反対側の休耕田へ落ちた。
我が家に飛んできてたら!!と 肝を冷やしたが、
反対側の休耕田だったので、事故・怪我人なく済み、
「 不幸中の幸い 」 だと皆で言い合ったが、
今思えば、どんなに打撃でいらしたことか。
ここは夜は無人となり、川向にご自宅があられる。
よって、うちの班には所属しておられないのだが、
日中、作業のためにいらっしゃるので、何となく「 隣家 」な感覚がある。
実際、こちらに転居して間もない頃、
右も左も判らない私を見かける度に、奥さまが親しくお話下さり、
班内のご不幸のお手伝い時には、船頭の多さに途方にくれる私を
何かと庇って下さり、こころ強く思ってきた。
当時はおそらく50代でいらしただろう。
この地ではまだまだ青二才の世代であるが、
ふくよかなお姿で、しゃきしゃきと動かれる。
普段は優しい奥さまが、
お通夜・葬儀のお手伝いでは、並み居る海千山千の女性群に対して、
ぴしぱし采配を振るわれたので、驚いたことだった。
時折、肉厚で大きな椎茸をお分けいただくことあり、
ステーキにして、舌鼓を打って来た。
売り物にならない椎茸がこれだけ出来たから、と
特大のカゴに山盛りいただいたときには、
義母や元班長の彼女と分けても食べ切れず、
糸で数珠繋ぎにして吊るし、干し椎茸にした。
いつもご夫婦で仲良く、二人三脚で作業しておられたのに、
いつ頃からか、ご夫君が見えなくなった。
風の噂に脳溢血で倒れられ、全介護が必要になられた、と耳にして絶句する。
お姑さんも健在だが、認知症が始まっておられ、要介護。
お子さんは娘さんで、結婚して出ておられると聞いていたからだ。
それから7年。
5年前からお姑さんをこの町の老人ホームに入れられ、
ご夫君の全介護を自宅でされ、
傍ら、パートさん雇用を止められて、独りで椎茸栽培を続け。
だが、椎茸栽培が思わしくない、との風の噂。
ご夫君も、2年前から胃に穴を空け、チューブで栄養を摂っておられる由。
娘さんご一家に帰って貰って、娘さんとふたりで寄り添うように、
介護と椎茸栽培を頑張って来られた。
椎茸栽培は火の車で、姑さんの年金では老人ホーム代も出ず、
ご夫君にはお金も手も掛かり、
娘さんから、家賃として5万円入れて貰っているそうな。
そんな風の噂に、耳を塞ぎたくなり、なんと厳しい毎日か、とこころ馳せる。
義父の葬儀後に道でばったりお逢いし、私の横に居た義母と話すうち、
「 余り苦しまずに逝って良かった、と思うしかない 」と言った義母に、
きりりと眉を上げ、
「 私はね、どんな姿になっても生きて在って欲しいです 」と。
間で私は、青くなったり赤くなったり。
案の定、義母は大層気分を害し、後々まで愚痴る。
余り何度も愚痴って最後は怒り始めるので、宥めるのに疲れた私は、
「 おかあさん。
私たちはおとうさんのことをそう思って諦めるしかなく、
そう思うことで救われているのですが、
でも、それは、内々で思っておかないと。
長く患い、苦しみながら病と闘っているひとの前で、
苦しまずに早く逝って良かった、なんて言ってはダメですよ 」
と言ってしまったことを苦く思い出しながら。
今朝早朝の訃報は、お姑さんのご逝去の報。
友引に掛かるため、本日中にお通夜とのこと。
同じ班ではないために、お手伝いは不要。
明日は出社日で、打ち合わせも入っているため、
ご葬儀は申し訳なくも失礼させていただくこととし、お通夜に参列。
お香典も、義母からのお香典(立替)と共にお出しする。
享年 93歳、との由だった。
喪主は当然ご夫君だが、お身体がどうにもならない。
ご自分も、娘さんのご夫君も遠慮され、親族の男性がご挨拶をされた。
1度もお逢いしたことはなかったけれど、
御遺影は、綺麗なおばあさん、のお姿だった。
ご冥福をお祈りしつつ、奥さまがどんなにお疲れのことだろう、と思いつつ。
。。。ひとは必ず歳を重ねていくものなのだ、と。
何だかしみじみ、家康の遺訓(本当は光圀作、だよね?)が胸に響く。
人の一生は、重荷を負ひて遠き道を行くがごとし。
急ぐべからず。
不自由を常と思えば 不足なし。
心に望みおこらば、困窮したるときを思い出すべし。
堪忍は 無事長久の基。
怒りは 敵と思へ。
勝つことばかり知りて 負くることを知らざれば、害 その身に至る。
己を責めて、人を責むるな。
及ばざるは 過ぎたるより勝れり。
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